不妊症とは、なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態をいいます。
不妊に悩む方の相談件数も年々増加していて、今では妊娠しないカップルは5組に1組ともいわれています。
世界保健機構(World Health Organization: WHO)では2009年から不妊症を「1年間の不妊期間を持つもの」と定義していて、さらに妊娠を考える夫婦の年齢がより高い米国の生殖医学会でも2013年に、「不妊症と定義できるのは1年間の不妊期間を持つものであるが、女性の年齢が35歳以上の場合には6ヶ月の不妊期間が経過したあとは検査を開始することは認められる」ことを提唱しています。
参照:厚生労働省「不妊に悩む夫婦への支援について」
参照:http://www.who.int/reproductivehealth/topics/infertility/definitions/en/
不妊症の原因は「女性にある」と思っている男性が多いかもしれませんが、実は不妊の50%は男性が原因であることもわかっています。
では、男性の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
男性不妊の原因
男性不妊の主な原因は、先天性不妊と後天性不妊の2つです。
先天性不妊と後天性不妊
男性の先天性不妊の原因は、様々な遺伝的な要因が影響するものや、発育段階で受けた影響などによって性機能不全になるものをいいます。
性機能不全とは?
男性の後天的不妊の原因は、
- ストレス
- アルコール
- 喫煙
- 肥満・糖尿病
- 病気や薬の影響
- 精巣の損傷もしくは機能障害
- 精子の産出あるいは射精に関するトラブル
など様々なものが考えられます。
造精機能障害とは?
男性不妊の原因の約90%が造精機能障害です。
精子を作る機能自体に問題があり、精子をうまく作れない状態をいいます。
造精機能障害の原因は、精巣や内分泌系(ホルモン分泌等)の異常で、これらが障害を引き起こします。
なぜ造精機能障害だと不妊になるの?
通常、一度の射精で数億もの精子が排出されますが、そのうちの99%が子宮の手前で死滅してしまいます。
そして、そのうち子宮まで届くのが数十万以下となり、卵子の周囲にまで到達できるのは数百以下といわれています。
そのため、精子の数が少なかったり運動機能に乏しい精子は卵管までたどり着くことができず、わずかにたどり着いた精子でも妊娠する確率がぐっと減ってしまいます。
これが不妊の原因となります。
主な3つの造精機能障害
障害の名称 | 説明 |
無精子症 | 造精機能障害の中でも重い症状。 精液中に精子が一匹もいない状態ですが、精巣や精巣上体に精子が存在していれば、顕微授精などの不妊治療で受精・妊娠することが出来ます。 |
乏精子症 | 精液の中に精子はいるが、その数が少ないという症状。 精子の数が基準を少し下回る程度であれば、タイミング法などを行います。さらに精子の数が少ない場合、人工授精、体外受精、顕微授精等の不妊治療を行います。 |
精子無力症 | 精子の数は正常にあるが、製造された精子の運動率が悪い症状。 その精子の状態により人工授精や顕微授精などの不妊治療を行ないます。 |
造精機能障害以外の原因
男性不妊には、造精機能障害以外にも原因があります。
不妊の原因 | 説明 |
精索静脈瘤 | 陰嚢内の温度が上がる等から精巣の発育不全などを発症し、精子形成に悪影響を与える |
閉塞性無精子症 | 精子の通り道である精管の一部がつまる等癒着しているため、精子が運ばれずに、精液のなかに精子いない状態 |
先天性精管欠損 | 生まれつき精管が備わっておらず、精子は精巣内に閉じこめられた状態 |
膿精液症 | 前立腺や精嚢等の炎症により、精液中に白血球が増え、精子の運動率を低下させてる状態 |
無精液症 | 精液が造られない状態 |
逆行性射精 | 精液が尿道に送られずに膀胱に逆行する状態 |
勃起不全(ED) | 性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起が維持できない、満足な性交が行えない状態 |
膣内射精障害 | 膣内で射精することが困難になる状態 |
男性不妊の対策
まずは不妊の原因の50%は男性が原因と知ろう
先でもお伝えしましたが、不妊の原因の50%は男性が原因といわれています。
本気で妊活をするなら、まずはその原因を特定する必要があります。
そして、その原因が男性にもあった場合には、積極的に治療を行いましょう。
不妊治療にはお金も時間もかかります。
そして、女性の体には大きな負担がかかります。
間違っても「自分には否がない」「不妊治療は女性の問題」などと決めつけないようにしましょう。
生活習慣の改善も大切です
生活習慣の改善には、
食生活
精神的なストレス
タバコやお酒
熱いお風呂やサウナ
などの習慣を改善することも大切です。
食生活の改善
男性の場合、家庭では手作りでバランスの良い食事が摂れても、外出先やランチ、飲み会などでは栄養バランスに気を遣わないという方も多くいます。
味の濃いメニューや脂っこい食べ物は精子に酸化ストレスを与えてしまう恐れがあります。
また、コンビニ弁当やカップラーメンなどのインスタント食品に含まれている食品添加物が、精子や精液の量や質に悪い影響を与える可能性もありますので、妊娠を望む時期にはこれらの食生活を改善するよう心がけましょう。
精神的なストレスを減らす
現代社会にあふれているストレスで、特に職場環境や人間関係などからくるストレスに男性は弱いといわれています。
男性の場合、精神的なストレスを受けると精子の量が減ったり、運動率が落ちたりする可能性があるだけでなく、性欲の減退が起こることもよくあります。
これは精神的なストレスを受けたことによって、精巣で作られる男性ホルモン・テストステロンの分泌量が減少することによって起こると考えられています。
テストステロンは生殖機能に直接的に関与するホルモンで、テストステロンの分泌量が減少すると精液・精子の質・量にも影響が出る他、性欲、勃起力にも良くない影響が出ることになってしまいます。
これらのことからも、実生活の中で精神的なストレスを軽減できるように、スポーツや趣味などでストレス発散をはかったり、仕事を充実させるための工夫をしてみましょう。
タバコやお酒を控える
タバコを吸っている人は吸っていない人と比較して精子の数が10~17%程度少なく、精子の運動率も低下すると言われています。
厚生労働省の運営する「e-ヘルスネット」でも、タバコと男性不妊との関係についてこう紹介しています。
男性においては、勃起障害のほか、精子の変形や運動性の低下・数の減少、不妊を引き起こす可能性が指摘されています。
引用:厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙によるその他の健康影響」より
お酒に関しては、アルコールと不妊との関係性には医学的根拠がありません。
ただ、過度の飲酒は生殖機能の働きを促す男性ホルモン、テストステロンの分泌を妨げる可能性があると考えられていて、精子の数や形状に異常をきたすとの海外の大学での研究結果も出ています。
熱いお風呂やサウナに入る習慣を見直す
精子にとって最適とされる環境は、体温より若干低い32~34℃くらいといわれています。
精子は精巣(睾丸)で作られますが、陰嚢が精巣を袋状に収めた状態で体外にぶら下がっているのは精子が熱に弱いからです。
男性不妊の方は、熱いお風呂に入ったり、サウナに入ったりするのが好きな習慣がありませんか?
これらの習慣が、直接精巣に熱を与えてしまい、精巣が正常な精子を作る働きを妨げている可能性があります。
ぬるめのお湯にゆっくり浸かりながらリラックスしてお風呂を楽しむことを意識しましょう。
ただし、長すぎる入浴は体温を上昇させてしまうことにつながりますので注意が必要です。
本当に不妊かどうかの検査もしよう
「不妊かも?」と思ったら、早い段階で精液検査を行いましょう。
精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを検査して、疾患が疑われる場合には泌尿器科的な検査も行います。
精液検査では、2-7日の禁欲期間(射精しない期間)の後に、用手法(マスターベーション)で全量を採取します。
病院で取るのが望ましいのですが、20℃から30℃程度に保持することが出来れば、自宅で採取して2時間以内に検査すればほぼ病院で採取した場合と同様の結果が得られることが多いと言われています。
男性の精液性状は日に日に変動するため、悪い結果が出た場合でも、再度検査をして問題ないとされることもあります。
精液検査で出る数値が正常かどうかは、こちらの表でご確認ください。
検査項目 | 下限基準値 |
---|---|
精液量 | 1.5ml以上 |
精子濃度 | 1500万/ml以上 |
総精子数 | 3900万/射精以上 |
前進運動率 | 32%以上 |
総運動率 | 40%以上 |
正常精子形態率(厳密な検査法で) | 4%以上 |
白血球数 | 100万/ml未満 |
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精液検査をしたほうがいいと思っても、なかなか病院に行くことができない。
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この精子検査の特長は、
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精子専門検査機関で検査するため、極めて信頼性が高い
申込はネットから24時間年中無休
検査結果は最短で2~3日、通常5日で受け取ることができる
1回の検査が2,680円(税抜)から受けることができる
という6つのポイントです。
実際の検査では、精液量、精子濃度、総精子量の3つについて知ることができ、コースによっては写真付きで結果を知ることもできます。
もちろん病院での精液検査と比べると検査項目は少なくなりますが、まずはこのような簡易検査を受けることで、男性不妊と向き合う準備をすることにつながりますので、ぜひ一度検査を受けることをおすすめします。
不妊治療を行う
男性不妊の場合は、原因に応じて、内科的治療(薬物療法)や外科的治療(手術)が行われます。
性機能障害での治療内容
(1)抗うつ薬
射精時、精液が膀胱に逆流する逆行性射精の症例に対して用いることがあります。
(2)PDE-5阻害薬
勃起不全(ED)の治療薬として用いられ、EDが不妊原因の一つである場合に用います。
(3)射精障害に対する治療
精子形成に問題がなくても、誤ったマスターベーションの方法に慣れてしまっているため、性交時に射精できない場合があります。器具を用いてマスターベーションの方法を矯正できるか試みますが、場合により人工授精を必要なこともあります。
(4)人工授精
性機能障害の治療を行っても無効な場合、あるいは希望しない場合や高齢の夫婦で妊娠を急がなければならない場合、人工授精を行います。
軽度~中等度の精液性状低下の場合の治療内容
(1)内科的治療
①生活習慣等、男性不妊の原因になりうる因子の除去
精子形成や射精を障害する可能性がある薬剤、喫煙、アルコール過剰摂取等、男性不妊の原因になりうると考えられるものがあれば、可能な範囲で中止します。また、長時間の高温環境はできるだけ避けるべきです。
②非内分泌療法(漢方薬、ビタミン剤、血流改善薬等)
精子の数が少ない症例や、運動率が低い症例に投与することがありますが、統計学的に精液所見や妊娠率の改善に対する明確な有効性が示された治療法は少なく、経験的治療が主体となっています。
③内分泌療法(hCG、FSH療法)
脳の視床下部あるいは下垂体の機能不全が原因でおこる精巣機能不全症例(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)に対して行います。先天性のものと脳手術後など後天的なものがあります。定期的な注射が必要ですので、患者さん自身に自己注射をしていただく場合が多いです。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、治療前の状態が無精子症であっても、薬物療法により著明な精液所見の改善が望める、数少ない疾患の一つと言えます。
(2)人工授精
軽度~中等度の精液性状低下の場合、人工授精で妊娠することがあります。
(3)精索静脈瘤に対する手術
精索静脈瘤を有し、精子形成障害をきたしている、もしくは将来の精子形成障害が危惧される症例に対して行います。手術方法としては、逆流の原因となっている精巣の静脈を結紮しますが、その位置によって高位結紮術と低位結紮術があります。一般的には、手術用顕微鏡を用いた顕微鏡下低位結紮術が多く行われ、術後に精子形成能の改善による精液所見の改善と妊娠率の向上が期待されます。
高度の精液性状低下・無精子症の場合の治療内容
(1)精巣精子採取術+顕微授精
様々な方法を試みても精液中から精子を回収することができない場合に行います。これらの方法で採取した精子は生殖補助医療(顕微授精法)で卵子と受精させることになります。
①精巣精子採取術(simple-TESE)
陰嚢の皮膚を小さく切開し、精巣組織の一部を採取する方法です。採取した精巣組織に精子が確認されれば、顕微授精に使用します。閉塞性無精子症の症例で、精路再建術が困難もしくは不成功であった症例に行います。閉塞性無精子症の場合は精巣内での精子形成が盛んなため、多くの場合は精子の採取が可能です。
②顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)
非閉塞性無精子症の場合は、精巣内での精子形成が極度に障害されていることが多いため、陰嚢の皮膚切開から精巣を体外に出し、手術用顕微鏡を用いて精子形成のある場所を綿密に探し、精子の採取を試みます。非閉塞無精子症の場合は、この方法を用いても残念ながら精子を採取できないこともあります。
(2)精路再建手術
精路(精子の通り道)に閉塞がある場合にその部を取り除いて精路を再建します。その閉塞部位によって方法が異なります。精路再建手術は、精路通過障害を解除できれば、射出精液中に精子が認められ、自然妊娠が期待できる治療法です。
①精管精管吻合術
パイプカット術後や鼠径ヘルニア術後など、精管の閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行います。閉塞部位の末梢側と中枢側の開通している精管同士をつなぎあわせる顕微鏡下精管精管吻合術が行われます。閉塞していた期間や原因等にもよりますが、術後には約80-90%の症例で精液中に精子の出現が認められます。
②精管精巣上体吻合術
精巣上体炎後等、精巣上体での閉塞が原因で無精子症を呈している症例に行います。精巣上体の一部を切開し、精管とつなぎあわせる顕微鏡下精管精巣上体吻合術が行われます。閉塞の原因にもよりますが、約40%程度の症例で、術後に精液中に精子が出現します。
③射精管解放術
前立腺嚢胞等が原因で、射精管(前立腺にある精液が尿道に出てくる部位)の閉塞がある症例では、経尿道的内視鏡を用いた射精管解放術を行います。これにより、精液量と精液所見の改善が見られます。
(3)非配偶者間人工授精
精巣精子採取術を行っても精子の得られない無精子症や、高度の精液性状の低下・無精子症の方で(1)、(2)に示したような治療をおこなっても妊娠に至らない場合、御夫婦の強い希望があれば非配偶者(夫以外の提供者)の精子を用いた人工授精治療を考慮することも出来ます。ただ、この治療法では父親と子どもに遺伝的なつながりがなくなること、子どもにその事実を伝えるかどうかなど、子どもが出来てからも考え続けなければならない問題が多く、どの御夫婦にも勧められる治療法ではありません。専門医に相談して、施行するかどうか慎重に考えて下さい。
参照:一般社団法人日本生殖医学会より